東京地方裁判所 平成元年(合わ)107号 判決 1989年10月31日
主文
被告人を懲役一〇年に処する。
未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和五三年に秋田県内の高校を卒業して上京し、飲食店店員等の職を転々とした後、平成元年二月ころからはラーメン等の材料を運送する仕事に従事していたが、生活費等のためいわゆるサラ金や妻の親族から借金を重ね、その返済に追われる等経済的に困窮し、また、かねてより俗にSMプレイと称せられるもの、とりわけ、女性に対し浣腸を施用することに強い興味を抱いていたものであるが、
第一 女子生徒ら少女から金品を強取し、かつ、強いてわいせつの行為をしようと企て、平成元年一月二四日午後三時ころ、セーラー服姿のA女(当時一五歳)が東京都江戸川区<住所略>甲方(当時のA女の住居)に入るのを見かけると、右甲方を訪れ、応対に出たA女に対し、「読売新聞です。」等と嘘を言い、更に「家の人は誰かいますか。」などと聞いて他に家人がいないことを確かめた後、右甲方において、いきなり両手でA女の首を締め、「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」などと申し向け、同女を後ろ手に緊縛し、猿ぐつわをしたり、同所の台所から持ち出してきた刃体の長さ一六・五センチメートルの文化包丁(平成元年押第八四四号の2)を突きつけたりなどしてその反抗を抑圧した上、同所において、
一 先ず、同女から金員の所在を聞き出し、たんす内にあった右甲所有の現金二六万円を強取した
二 次いで、A女を仰向けに寝かせてそのパンティー等を脱がせ、同女の陰部に手指を挿入したり、陰茎を同女の口内に入れて射精するなどして強いてわいせつの行為をした
第二 女子生徒ら少女から金品を強取し、かつ、強いてわいせつの行為をしようと企て、同年三月一〇日午後五時三〇分ころ、女子高校生の制服を着用していたB女(当時一七歳)が同都板橋区<住所略>乙方玄関前にいるのを見かけると、右乙方を訪れ、B女に対し、「読売新聞です。集金に来ました。」などと嘘を言い、更に「家の人はいませんか。」などと言った後、右乙方において、いきなり両手でB女の首を締めながら、「大人しくしていれば何もしない。金を取ったら逃げるから。」などと申し向けていたところ、同女のほかに遊びに来ていたC女(当時一六歳)がいるのを見つけ、B女及びC女の両名に対し、同所にあった鋏や同所の台所から持ち出してきた刃体の長さ約一七・二センチメートルの文化包丁(前同号の1)を突きつけ、「騒いだら目をくりぬくぞ。」「声を出すなよ。出したら殺すぞ。」などと脅迫し、右両名をそれぞれ後ろ手に緊縛し、猿ぐつわをするなどして右両名の反抗を抑圧した上、C女を仰向けに寝かせ、同女に対し、そのパンティー等を脱がせ、所携の浣腸器で浣腸を施用し、その陰部に手指を挿入するなど強いてわいせつ行為をしているうち、同女を強姦しようと決意するに至り、同女の上に乗りかかって強いて同女を姦淫したが、前記の陰部への手指の挿入行為により同女に処女膜裂傷の傷害を負わせ、引き続き、B女に対しては、右文化包丁を突きつけて同女から金員の所在を聞き出した上乙所有にかかる現金一万円を強取した
第三 女子生徒ら少女から金品を強取しようと企て、同月一六日午後六時一五分ころ、同都練馬区<住所略>丙方を訪れ、応対に出たD女(当時二一歳)が小柄で一五、六歳に見えたところから、同女に対し、「読売新聞の集金なんです。」などと嘘を言い、更に「お父さんやお母さんはいないの。」などと言いながら、同女の隙を見ていきなりその首を両手で締め、「声を出すな。金を出せ。」などと申し向け、その反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが、同女が抵抗したり、大声を上げて二階にいた同女の妹に警察への通報を依頼したりしたため、その目的を遂げなかった
第四 女子生徒ら少女から金品を強取し、かつ、強いてわいせつの行為をしようと企て、同年六月一四日午後五時ころ、帰宅途中の女子中学生の制服姿のE女(当時一四歳)を見かけると、同女の後を追尾し、同女が同都練馬区<住所略>丁方に入るのを見ると、新聞の集金人を装うなどして他に家人のいないことを確かめた後、上がり込んだ右丁方において、同所の台所から持ち出してきた刃体の長さ約一六・五センチメートルの文化包丁(前同号の3)を右E女に突きつけ、「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」などと申し向け、同女を後ろ手に緊縛し、猿ぐつわをするなどしてその反抗を抑圧した上、同所において、
一 先ず同女を仰向けに寝かせ、前記制服を引き裂きパンティー等を脱がせ、所携の浣腸器で同女に浣腸を施用したり、その陰部をなめるなどして強いてわいせつの行為をした
二 次いで、同女に再び右包丁を突きつけて同女から金員の所在を聞き出した上右丁の妻戍所有にかかる現金三万円を強取した
ものである。
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
被告人の判示第一の一、第四の二の各所為はいずれも刑法二三六条一項に、判示第一の二、第四の一の各所為はいずれも同法一七六条前段に、判示第二の所為は同法二四一条前段に(なお、強盗の目的で、判示のとおり、被害者二名に暴行、脅迫を加えても、本件のように、その奪取しようとする財物が一個の管理下にあると認められる場合には一個の強盗罪が成立するにすぎないから、右被害者二名のうちの一名(C女)を強姦したときは、強盗強姦の一罪が成立するにとどまると解すべきである。更に、
本件のように、強制わいせつとこれに接着して強姦が行われた場合はこれを包括して一個の強姦行為と評価すべきであること、強盗強姦罪が成立する場合において、犯人がその強盗の機会((あるいは強姦の際))に加えた暴行により生じた傷害はもとより強盗強姦以外の別罪を構成するものではないが、強盗強姦罪の重要な量刑評価の対象となるものであり、右傷害の点を判示すべきことも多言を要しないところである。)、判示第三の所為は同法二四三条、二三六条一項にそれぞれ該当するところ、判示第二の罪については所定刑中有期懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中五〇日を右刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
被告人は、判示のとおり、わずか五か月足らずの間に、次々と強盗強姦の大罪のほか、強盗、強制わいせつ、強姦未遂というこれまた重罪を反復累行したものであって、その各動機に同情すべき点があろうはずがないなどその各犯情はいずれも甚だ芳しくなく、とりわけ、判示第一、第二、第四の各犯行に至っては、白昼、少女ともいうべき一〇代半ばの中学生、高校生をつけ狙い、新聞の集金人を装って右少女らに接近したり、被害者が一人でいることを確かめるなどし、いきなり右少女らに襲いかかってその首を締め、右少女らに対し、包丁等を突きつけたり、判示の強度の脅迫文言を申し向けたりして、後ろ手に緊縛して身動きがとれない状態にした上、現金合計三〇万円を奪取したほか、陰部への手指の挿入、口内での射精、浣腸など筆舌に尽くし難い淫らな行為に及び、うち一名の女子高校生に対しては処女膜裂傷の傷害を負わせ、あげくの果てには同女を強姦し、更に各犯行後も、少女らに警察に通報すると殺すとか放火するなど申し向けて口封じを図ったもので、その各犯行態様等はこの種事犯としても稀な程悪質、非道にして卑劣極まりなく、これらの仕打でもてあそばれるなどした右思春期にある被害者らの蒙った精神的・身体的苦痛の大きさは計り知れないものがあり、加えて、本件各被害者に対し慰謝の措置が何ら講じられていないことをも併せ考えると、被告人の刑事責任はまことに重大であると言わざるを得ない。
したがって、右刑責にかんがみれば、他方、被告人が、捜査官の取調べに対し、本件を含め、未発覚の各犯行をも進んで自供するなど、その非を深く反省、悔悟し、現在、被害者らに対する真摯な謝罪の念を抱いていること、被告人にはこれまで前科がないこと、その他その家庭環境等本件全証拠から推認できる被告人に有利な一切の情状を考慮しても、なお主文掲記程度の刑は免れ得ないところである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 反町 宏 裁判官 高麗邦彦 裁判官 山田 明)